オカラの高度酵
素分解と機能性探索
笠井尚哉
大阪府立大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
1.オカラの高度酵素分解
図1は当研究グループのオカラの高度酵素分解と機能性探索
研究の背景を示している。
大豆は大豆油、豆乳、醤油をはじめ非常に多くの重要な食材原料であり、その所謂、生産粕であるオカラ・醤油粕などはアジア地域においては代表的な農産廃棄
物のひとつである。
近年の環境問題である農産物系廃棄物や大気汚染を軽減しようという試みは数多くされてきており今後とも必須事項と位置づけられる重要な課題である。
今回講演のなかで示すことは、私たちが、このような背景の中 「溶媒を使用しない大豆の酵素的採油研究で得られた単細胞化を特徴とする酵素ストリッピン
グ法」の結果を、「オカラの高度酵素分解とその利用」へ適応させた結果である。
オカラに関しては国、公共研究機関、試験場などで多くの利用が試みられてきているが、これまでのオカラの利用は発酵やサイレージなどの研究が多く、オカ
ラの可溶化は意外に少ないものであり、また困難なものとされてきた。
このようななか 私たちは利用・探索の最も基本となる可溶化を中心に検討した。また、食品素材ということを考え、通常の食品用酵素を使って出来る限り可
溶化できないか?ということを目標とし検討を行った。これまでの検討で以下1-4のようなことが明らかとなっている。
1.単細胞化すれば従来の食品用酵素で充分分解可溶化できる。
2.構成成分ごとに分画利用ができる
3.構成成分ごとの機能性探索も可能 植物共通の面も多くあると思われ、適応が可能。
4.これらのことは、従来から利用が難しいと言われる他農産物系廃棄物にも利用可能。
従来オカラの一般成分は数多く分析されており、分解困難なHigh-Fiberがあると信じられている。しかし、調べる限り実際には大豆細胞の集合体で
はあるが、ファイバーだけが存在するものではない。従って単純な繊維やファイバーという考え方は少なくとも違っていると思われる。
そこで、オカラの構造を考えながらの可溶化: すなわち単細胞化することと構成成分を考慮しながら検討を行ってみると比較的簡単に大豆細胞内部のものを
除く85%以上が可溶化できることがわかり、得られた可溶化物についてもその機能性の探索を行ってみた。
図2はオカラの顕微鏡写真である。オカラはこのように大豆から細胞内部のオイルボディと可溶性タンパク質を抽出した大豆細胞であることがわかる。

大豆細胞の切断面にはカッターで鋭利にカッティングされて、これが歯触りを悪くさせてい
ることもよくわかる。

図3は大豆細胞を単細胞化させ、細胞にクラックを与えたものである。
このように内容物は細胞にクラックが入ると、簡単に外にでることがわかる。いわゆる豆乳
である。また、このように大豆細胞は各種の構成成分で確かに頑丈に
作られていることもわかる。
ポイントがいくつかある。細胞は実際にはお互いに強固に接着剤で接着され
ており、その細胞も少なくとも2つの成分の異なる細胞壁で守られている。この点が非常に重要であり、すべての問題の元である。従来の試みではこのような構
造的、成分的特徴を考えながらの可溶化研究はなく、これまでの報告では 一般には分析のためと、可溶化のために細粉化がまず行われていたからである。しか
し、このようにすると構造が破壊され、何が分解され何が分解されないのかがわからなくなるのである。
構造を壊さず、可溶化を進めるには1つずつの細胞を裸にすることが必要と考えられる。種々検討の結果、オートクレーブ121℃、>10minの処
理と撹拌により大豆細胞が容易に単細胞化されることがわかった。
図4はオカラを通常の殺菌条件でオートクレーブし、撹拌しながらセルラーゼを作用させたものである。
オートクレーブ処理は頑強な植物細胞の接着物(一般的にはペクチン、ヒドロキシプロテイン、アラビノガラクタンプロテインなど5種類)を可溶化させ、撹拌
により分散させる力を加えると単細胞化され、結果的にセルラーゼが作用しやすい裸の細胞表面積を一気に増やし、セルラーゼが非常によく働くようになるので
ある。しかしながら、可溶化は一気に進むがこの処理だけでは約50%程度で停止する。換言するとセルラーゼはセルロース系の細胞壁しか分解できないのであ
る。
セルラーゼ処理で残存するものについて、光学顕微鏡観察を行いながら検討下結果、非常に透明性の高い細胞壁と細胞間隙繊維様物が残っていることがわかっ
た。このものはセルラーゼの細胞壁の分解途中ではなく、非セルロース系の膜状のものが残存するのである。そこで更に酵素分解させるために、この残存物がど
のような構造物であり構成成分がどのようなものであるかについて検討を加えた。
まず、このものと大豆単細胞との比較と同定を行った。
図5は同じようにオカラではなしに大豆細胞を同じように単細胞化させセルラーゼを作用させたものである。この図のように最外殻の細胞壁は簡単に溶解され、
2次細胞壁が風船のように膨らんで来るのがわかる。オカラの場合は、ほとんどこの内部のものは豆乳となり、無くなっており、先ほどのセルラーゼ抵抗性の細
胞壁はこの2次細胞壁だということになる。
当初、「細胞壁は多糖から成る」というのが固定概念があり、常法通り各種セルラーゼ・ヘミセルラーゼ・ペクチナーゼ・・グルカナーゼは勿論のことプロテ
アーゼなどといった多種多様の酵素を作用させたが、全く分解することはできないことがわかった。そこで原点に戻り、この2次細胞壁の化学的構成成分を検討
致した。この残存物は、各種染色法によっても 糖、蛋白質の存在が不明瞭な疑陽性の結果しか与えず、塩酸分解では凝集するものであった。そこで水酸化ナト
リウムを加え、煮沸溶解させ、その溶解物の分析を行った。
図6には先ほどの2次細胞壁を1NNaOH中で煮沸させ、主成分を分離したものの部分離パターンとそのSDS-PAGEを示した。
図のように蛋白も糖も同時に検出され、ひとつのブロードな単一スポットを与えた。また各種の酸分解物や呈色反応の検討の結果、ウロン酸を含む不溶性ペクチ
ン様物質と中性糖とそして蛋白質からなる3者複合物であることが明らかになった。 一次細胞壁のように、単純な構成物ではないことも可溶化抵抗性示す1つ
の原因であり、染色法に対して疑陽性を示す原因と考えられた。そこでさらにこれらの構成成分を考えながら、数多くの食品用酵素を用い可溶化酵素のスクリー
ニングを行った。
スクリーニングは基本的にこの2次細胞壁が溶けることをメルクマールにして行った結果、ようやく そのうちの1つにペクチナーゼ(ノボ社ペクチネックス
ウルトラ)が効果的であることがわかった。図7の写真は、その効果を示したものである。
このように、2次細胞壁は完全に溶解することがわかる。また多くのペクチナーゼはこれを溶解させることができないこともわかった。この結果は興味深いこと
で、ペクチンの多様性とペクチナーゼの多様性を示している結果と言える。逆に言うと、現在まで分解しにくいものであった理由の1つとも思われる。
図8は今回のオカラ可溶化のスキームを示している。
1.オカラを2.オートクレーブ処理し、撹拌しながら単細胞化させながら
3.セルラーゼを作用させ、さらにペクチナーゼを加える。
これらの処理は同時に行うことも可能であるが、ここでは各々の可溶化画分をA, B, Cとした。
図9は紹介した処理によるオカラ可溶化の結果をヴィジュアルに示したものである。
従来の方法ならば どうしてもこのあたりの(セルラーゼ)分解が限界であり、既知報告のようにその分解率はおよそ50-60%であることとよく一致する。
また今回示したペクチナーゼにより、非常に劇的に可溶化されるのがわかる。最後に残ったものは、その化学的組成と光学顕微鏡の結果より主として大豆細胞の
中にあるオイルボディであることが示された。また細胞間に存在する繊維状の構造体も示された。(油は液体であるので別として考えれば、いずれも糖、蛋白質
との複合体であり、別の実験結果より、いくつかの酵素により分解可溶化できることが既に判明しているが、今回の発表では未報告とする。)
さて、この残存物の結果は次のことを示している。すなわち、一連の本処理での残存物は豆乳製造時に大豆細胞内部に残った油とオイルボディ構造体、そして
細胞間隙繊維様物である。このことは、豆乳製造時の歩留まりはおよそ70%と一般的には言われるが、豆乳製造時の大豆細胞内部の移行率を高めれば、理論
的には完全にオカラは可溶化できることを示している。
またこの結果は別のことも意味する。細胞壁が可溶化され、油と顆粒が残るのであるが、このことを一般的な植物(農産物)に適応させると植物顆粒内に貯蔵
されている油・精油・油溶性化合物あるいは貯蔵物質の濃縮が行えることになり、磨砕などの際に生じる酵素的変化(辛味や苦味あるいは臭みなどの発生)を伴
うことなく可溶化もできることになる。
今回の方法をオレンジに作用させた場合の例を以下に示した。(図10)
大豆のオイルボディの代わりに 精油成分の粒子のみが残り、あとはすべて溶解可能であった。他にタマネギや日本茶でも同様の結果であり、未利用農産物の利
用やバイオマスの化学物質資源としての利用という意味で今後の利用が期待される。
2. オカラ可溶化物の機能性探索
上記に示したオカラ可溶化画分A, B, C の機能性探索を行った。
機能性探索は何を求めるかが重要であり、利用する分野によっても異なるが、とりあえず一般的な血糖関係、消化器系、高血圧の原因と言われるアンジオテンシ
ン変換酵素、食品・化粧品関係に必要な乳化活性、ゲル化活性、そして乳酸菌に与える影響とこれらに関する生物試験を行った。
今回の方法のひとつの特徴は、オカラを粉砕することなく行う酵素ストリッピングであるために、構成物に特有の分解物が得られることである。
まず、図11には示した糖組成パターンはCがセルラーゼ、Pがペクチナーゼのそれぞれ高分子、中分子、低分子分解物, a, b,
cの構成中性糖を示している。例えばアラビノースはセルラーゼ分解物の低分子に多く、ガラクトース・グルコースはペクチナーゼ分解物の低分子画分に多いこ
とがわかる。また、この結果はそれぞれの構成物の特徴を反映しており、局在していることを反映している。例えば、アラビノガラクタンやヘテロガラクチュロ
ナンの存在を示している。残存物に関してはウロン酸と共にアラビノース・キシロースが多くヘミセルロース系の残存を思わせるものである。
図12はセルラーゼ可溶化画分の小腸シュークラーゼ阻害活性を示したものである。上は分解物を分子篩分析カラムバイオゲルPによりゲルろ過したフラクショ
ンの全糖量とそれぞれのシュークラーゼ阻害活性を示している。検討の結果、今回の用いましたセルラーゼは非常によく単糖にまで分解し、豊富に含まれるアラ
ビノース、キシロースが阻害剤であることが示された。
セルラーゼ可溶化画分は典型的な不拮抗阻害を示し、単糖部分での阻害は、そのほとんどがアラビノース、キシロースであると考えられた。しかしながら、同程
度の活性をもつオリゴ糖も存在することがわかり、この点は新規なオリゴ糖の可能性を示しており興味深い。
同様の食後高血糖阻害効果はラットを用いた実験でもマルトース、スクロース投与に対し阻害効果を示した。効果の強弱については可溶化物の濃度に依存する
が、マルターゼにも阻害を示すことは興味深い。追加的な情報としては、単細胞化後、使用するセルラーゼの種類により、上記の活性画分が、異なることであ
る。このことは、マイナー部分の構造物と作用する酵素の特性が反映された結果であり、今後の利用に際して考慮すべきことである。
アンジオテンシン変換酵素阻害(ACE)の多くはペクチナーゼ可溶化画分に見られる。図13のように幅広い分子量の多くの阻害が認められた。
大豆食品である醤油や納豆・発酵物にACE阻害が存在するのはよく知られている
が、私たちの結果は、多くの蛋白質由来の酵素分解物にその活性があるとと
もに、その局在化の可能性を示すものである。抗高血圧に対する代表的な指標酵素であり、抗アンジオテンシン酵素の活性を示した健康食品が多く、研究も進ん
でいるが、アミノ酸の組み合わせは 非常に多くの組み合わせが存在し、新規なペプチドの可能性を示すものである。
図14は食品素材としての可能性のひとつゲル化を示したものである。従来、ゲル化剤に
はウシ由来のゼラチンや鶏卵卵白が代表的
なものであるが、最近のBSE禍や卵白アレルギー問題を考えた場合、比較的問題の少ない植物性である大豆・オカラ由来のゲル化材料は興味深いものと考えら
れる。ゲル化能を示す画分は主にオートクレーブ処理画分に見られた。セルラーゼ処理したものは、透明性のある琥珀色のゲルにすることが可能であった。当該
業者の意見によるとゲル化剤だけに限定するならば、もっと優秀なゲル化剤が多く知られているが、先ほどの高血糖阻害なども含んだなかのオカラの利用という
点でいいのではないか?と考えている。既に記述した抗高血糖や抗高血圧あるいはガラクトースに由来する乳酸菌生育機能なども含めたトータルのゲル化能とい
う観点から考えたい。実際、本ゲル化能に関しての検討では、複雑な系が関係していると思われるが、概ね以下のような結果を得ている。すなわち、高分子蛋白
とウロン酸が関係しており、これらの成分の局在化が示されている。本ゲル化能を示す構成分は、オートクレーブ画分にあると思われる。またプロテアーゼでゲ
ル化能が弱くなることから蛋白性のものと思われる。
図15は、ゲル化するものと しないもののHPLCゲル濾過カラム分析を示したプロフィールであるが、種々検討したところ、ゲル化能を示しますものは分
子量の大きいな*で示したピークを含有していることがわかった。
本ゲル化能を示すタンパク質は一般の豆乳成分には見あたらず、検討した結果、大豆
細胞の周囲に存在するタンパク質
であり、オートクレーブ処理によって初めて抽出される糖タ
ンパク質である。単純計算では大豆重量のおよそ9%程度を占めていると思われ、オカラにはまだまだ有用な素材が含まれていることが示された。
現在までに判明した機能性については農産物特有の細胞壁成分や構成物にあるものばかりである。しかしながら、本方法は各構成成分ごとの分解可溶化をしてい
るので、今後、ノイズの少ない検索は可能と私たちは考えている。併せて特定健康食品が注目されているが、それとは違う別の見方の考え方、利用の仕方も必要
ではないか?と考えている。
以上の結果を図16にまとめた。
すなわち、大豆・オカラをモデルにした高度酵素分解の実施
細胞構成物とその酵素可溶化物の構成成分の検討、酵素可溶化物の機能性探索およびその他未利用農産物・廃棄物への応用の可能性である。今後の更なる進展と
利用が期待される。
謝辞
本研究の一部は大阪府、大阪TLO-経済産業省「新規植物性機能材料の開発(豆類食品廃棄物の有効利用技術開発)」事業により行われたものである。ここに
ご支援を感謝する次第である。